もしもダンガンロンパだったら 第8話






初めての殺人事件。


初めての調査。


初めての学級裁判。





そして・・・




初めての処刑。




初めて、人が壮絶な死を迎える瞬間を目の当たりにした私達は誰もが厳しい表情をしていたに違いない。

ルイやキューなど何人かは目を逸らしてヴィックスの最後を見る事もなければ、
ギーンやジェスターみたいに何故か笑って楽しんでいるかのような表情を見せている人もいた。
そして、金網にしがみ付いて必死に揺らして叫び声をあげるボロとガムナ。・・・・私には推測する事しかできないけど
やはり二人にとっては最も親しい友人の一人を目の前で失ったのだから悲しい気持ちにいるのだろうか。・・・それとも、モノクマに対する怒りの気持ちか。
処刑を終えた後、二人は金網にしがみ付きながらただ顔を下に向けていた。・・・泣いていたかどうかは、私にはわからない。ただ体を震わせていた。

・・・その中でも相変わらずキュピルだけが一人周りと違う表情でヴィックスが死にゆくところを見つめ続けていた。

怒りの目。

キュピルの目は哀れみの目でも、悲しみの目でもなく、確かに怒りの目を向けていた。

不思議だった。

何故、この学園で初めてであった人が死にゆくところを見て、怒りの目をすることが出来るのか?
普通は恐れや悲しみ。・・・笑っている人は例外として、その後に怒りの目を向けるのではないだろうか・・・。


その怒りの目は、師匠を殺したヴィックスに対する怒りの目?

それとも、こんな悲惨な処刑を行わせるモノクマに対する怒りの目?


でも、私にはそのどちらでもない者へ向けて怒りの目を向けているように感じられた・・・・。




モノクマ
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

処刑を終えた後、モノクマがお腹を抱えながら笑いそして肉片を指さした。

モノクマ
「エクストリーム!!僕の言いたい意味分る?」
キュピル
「モノクマ・・・。」
モノクマ
「ん?どうしたの?そんな目の色変えちゃって。」
キュピル
「お前はもう気づいているだろ。この週が、これまでと違う事に。」

・・・?この週?これまでと違う事?

キュピル
「失うものは大きいかもしれない。だけど、それ以上に俺がお前を倒す・・・。」

キュピルはただそれだけ言い放つと、私達に背を向け、そして処刑場を後にした。

ギーン
「・・・何なんだ?奴の意味を含んだ今の言葉は。」
ディバン
「さあな。・・・キュピルと言ったか。あいつだけは俺達と違うオーラを感じるな。」
ルイ
「そうですね。キュピルさんは必要な事以外一切喋らず、誰かも庇い、そしてとても聡明なお方。
これまで何年もメイド長を務めてきて参りましたけど、彼以上に紳士的な方な見たことありません。」

そういうとルイはニコッと笑顔を見せる。
・・・今の笑顔に大きな違和感を感じる。
どういう違和感なのかまでは分らないけど、何か変だ。

キュー
「す、すごい推しだね・・・。」
ジェスター
「キュピルってそんなに紳士?普通に見えるよ?」
ヘル
「お前・・・よく顔色一つ変えずに今の処刑を最後まで見れたな・・・。流石に俺でもあれは・・・。」
ジェスター
「だって私には関係ないもん。」

そういうとジェスターもルイに負けない良い笑顔を見せた。普段なら可愛いで済む一言も今の状況では・・・。
それ以上、誰もジェスターの言葉を追いかけようとはしなかった。

ギーン
「おい、モノクマ。」
モノクマ
「んん?」

ギーンがモノクマへ歩み距離を詰める。

ギーン
「お前はさっき、意味ありげな言葉を発したな?『皆待っている』っとな。あれはどういう意味だ?」
モノクマ
「はれはれ?皆待っている?ボクそんな事言ったっけ?」
ギーン
「とぼけるな。」
モノクマ
「言ったかもしれないけど、意味はそのまんまだよ。これ以上はちょっと喋れないなぁ~~。」
ギーン
「ちっ。・・・・俺は行くぞ。」
テルミット
「・・・・僕も、ちょっとここから早く離れたいので・・・失礼します・・・。」
ファン
「ゴミが貯まっているのでボクも失礼します。」
キュー
「この中に人間じゃない心を持っている人が約3名ほどいるね・・・。」
ジェスター
「それどういう意味?人種差別?」


どのような気持ちであれ、殆どの人間が処刑場を後にする。
・・・誰だってこんな所に居たくないはずだ。

・・・私達はその場を後にした。


ただ、ヴィックスと最も親しかったボロとガムナだけは、その場に残り続けていた・・・。




・・・・。


・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・。














時刻は午後5時。

学級裁判を終えた後、私は自分の部屋へ戻るとそこには死体はなく、壁の傷も、汚れも、血の跡も。
全てがなくなっていた。

まるで、そこに殺人事件何かがなかったかのように・・・・。

今、私が師匠の部屋に尋ねれば不機嫌そうな顔をしつつも私を迎え入れてくれる・・・。そんな気がする・・・。


だけど、現実を見ないと。



もう・・・この世界に師匠は・・・いないんだ・・・・。



琶月
「うっ・・ぐずっ・・・し、師匠・・・き・・・輝月・・・さ・・ん・・・」

嗚咽を上げながら、ただただ泣き続ける私。

・・・・。その時。


「琶月。」


琶月
「!!」

私は驚いて後ろを振り返った。そこにはキュピルが立っていた。
私は慌てて服で涙を拭き、無理やり笑顔を作った。

琶月
「あ、あれ・・。鍵、しまっていませんでした?」
キュピル
「鍵どころか扉も開いていたぞ。」
琶月
「と、扉事・・・・。わ、私ってば相変わらずドジ・・ですね・・・。」
キュピル
「琶月。・・・少し話がしたい。」
琶月
「・・・話・・・ですか?」

・・・・奇遇だ。

琶月
「奇遇・・ですね。・・・ちょうど、私もキュピルさんとお話したい事がありました。」
キュピル
「そうか。・・・なら、そっちから先に行ってくれ。」

この学級裁判。私はいくつかキュピルさんに対して疑問を持ってしまった事がある。


一つ目の疑問をぶつけよう。


琶月
「キュピルさん・・・。私達が泊まっているこの部屋って防音性に優れているらしいですね・・・。」
キュピル
「ああ。いくら叫んだところで隣の部屋にその叫び声は聞こえやしない。」
琶月
「・・・私が師匠の遺体を見つけた時・・・。叫び声をあげましたけど・・・。その時、キュピルさんは私の叫び声を聞いたからやってきたんですよね?
どうして私の叫び声が聞こえたんですか?」

そう、ここが一番の謎だった。

どうして、あの時・・・。キュピルさんは私の叫び声に気づいたのか・・・。
すると、キュピルが小さな笑みを見せ私に答えを教えた。

キュピル
「あぁ、あの事か。すごく簡単な話だよ。」
琶月
「え?」
キュピル
「お互いドアが開きっぱなしだった。それだけのことだよ。」
琶月
「・・・ど、ドアが・・・開きっぱなし・・・だった?」
キュピル
「そうだ。・・・多分、ヴィックスが琶月の部屋から出る時にあえて開きっぱなしにしていたんだと思う。低い確率だが、誰かが夜に起きて
開きっぱなしの琶月の部屋を覗かせて、あたかも琶月が犯人であるかのように見せかけるためにね。」

・・・なるほど・・・。

琶月
「私の部屋が開きっぱなしである理由は分りましたけど・・・。何故キュピルさんのドアまで開いていたのですか?」
キュピル
「それも簡単な話だよ。俺はわざとドアを閉めないで寝ている。物を挟んで1cmか2cmだけ開くように・・・ね。」
琶月
「え!!?で、でもドアを開けっ放しで寝るってことは・・・誰でも入り放題って事ですよね!!?」
キュピル
「そうなるな。」
琶月
「そ、そんな事したら誰かに襲われる危険性が上がるじゃないですか!!殺されちゃったらどうするんですか!?」
キュピル
「殺されない。」

腕組みをし、どんなものがきても動じないと言わんばかりの反応を返した。

琶月
「どうしてそう断言できるんですか!誰だって狙われる可能性があるんですよ!それはキュピルさんだって例外では・・・」
キュピル
「狙われないから殺されないっと言っているんじゃない。狙われても返り討ちにする自信があるから殺されないと言ったんだ。」

そういうとキュピルはこれまで以上に鋭い目を私に向けた。
返り討ちにする自信・・・・。
・・・その後はもう、問い詰める気はしなかった。

・・・やっぱり、キュピルさんだけ周りの人とオーラが違う。

・・・でも、どうしてこんなことを?

それを聞こうとする前に、今度はキュピルさんの方から私に質問をしてきた。

キュピル
「次は俺の番だ。琶月、一つだけ頼みを聞いてほしい。」

・・・・え?頼み?
私への頼みごとって・・・一体・・・。

キュピル
「心配するな。別に殺すための布石を打とうとしているんじゃない。」
琶月
「ぎゃ、逆にそんな事言われたら余計警戒しちゃいますよ!!」

むしろ、そんな事意識していなかっただけに・・・。

キュピル
「・・・頼みってのは、ここの校舎内を探索したいと思った時、出来れば一言俺に声をかけてほしい。」
琶月
「・・・へ?ど、どうしてですか?ま、まさかみかじめ料払えって事ですか!?わ、私!お、お金なんか!!やだ~~~~!!!!」
キュピル
「・・・輝月も随分苦労しただろうな。勘違いの多い弟子を持って。」
琶月
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

両手で頭を抱えながら叫ぶ私。あれ、普通に叫んだのが何だか懐かしい。

キュピル
「俺が言いたいのは、ここを探索する時は俺も一緒に探索させてくれって意味だ。」
琶月
「あああああああ・・・・え?」

叫ぶのを止めてキュピルを凝視する。

キュピル
「それだけだ。・・・嫌か?嫌なら素直に断ってもらって構わない。」
琶月
「・・・あ・・・い、嫌とかじゃ・・ないんですけど・・。む、むしろ一人だと狙われる心配もありましたから、逆に嬉しいんですけど・・・。
でも、どうして・・・?」
キュピル
「・・・いや?深い意味はない。俺もそろそろ一人でいるのに飽きてきて。」

あ・・・飽きてきて・・・。・・・でも、その中で私を選んだ・・・ってことだよね・・・。
何を考えているのか良く分らない人だけど、私と居たいって考えているのならちょっと嬉しいかも。そういう風に思われたのは初めてだから・・・。
でも誘うとしたらルイさんを選ぶような気がしたんだけど・・・。何でだろう?もしかしてガムナみたいに貧乳が好きとか?

キュピル
「今凄く失礼な事考えたか?」
琶月
「そ、そ、そ、そ、そんなことないですよ!!!!」
キュピル
「・・・まぁ、いいか。それだけだ。・・・俺はもう失礼するよ。」

それだけ言うとキュピルは私に背を見せ、そして部屋から出て行こうとした。
そしてドアノブに手をかけた時、もう一度キュピルが私に語りかけてきた。

キュピル
「・・・・琶月。・・・輝月は本当に、罪を琶月に着せようとしたと思うか?」

突然言われた一言に私はドキリとした。

・・・・。

・・・師匠・・・・。

琶月
「・・・・多分・・・。」

私は力なく答えた。
・・・これまでの事実がそう示している・・・。

・・・キュピルは私に背を向けながら、答えを返した。

キュピル
「・・・・一つだけ、疑問に思わないか?」
琶月
「・・・何がですか?」
キュピル
「何故、琶月を殺さずヴィックスを殺そうとしたのか。」

・・・・。

黙りつづけている私にキュピルは続きを語り始めた。

キュピル
「人を殺してここから出るためだけなら、気を失っている琶月の首でも絞めて殺せばいい。そうすれば、殆どの証拠も残らず事件も難しい方向へ進んだだろう。ここには指紋を取るための科学捜査をする道具なんて一切ないからな。
ましてや、大事な一番弟子を殺されたと主張して怒りをぶちまけたらキューとかは輝月を信じ込んで庇い、余計面倒な事になったはずだ。
・・・でも、態々そうせず、面倒な手段を取ってヴィックスを殺そうとしたのは何でだと思う?」
琶月
「・・・・さあ・・・・。私には・・・。」
キュピル
「少なくとも、輝月は琶月の事を大事にしていた証拠だと思う。殺さずにただ、ここから出るためにちょっと利用させて貰った。輝月はそれだけのつもりだったんだと思う。
・・・ただ、もし、輝月の計画が成功して翌朝を迎えた時。モノクマの言葉を聞いて青ざめたかもしれないな。
結局、自分が出るためには全員を欺き、そしてその結果全員が死ななければいけないからな。その全員に琶月は当然含まれている。
結局はヴィックスを殺めてここから出るためには琶月をも殺めなければいけない。それじゃ態々ヴィックスを殺す作戦を取る意味なんてなくなるからな。
・・・輝月は知らなかっただけだ。・・・ここを出るためにはただ人を一人、誰にも分らないように殺せばいいだけだと思っていた。そうすれば、少なくとも琶月は犯人扱いされても死ぬことはない・・・と。
勿論、その後に待ち構える、全員の命をかけた学級裁判があるとは知らずに・・・な。」
琶月
「・・・・そんなの・・・ただの推測・・・じゃないですか・・・。・・・師匠・・・本当は私の事・・・嫌いだったんじゃ・・・。」
キュピル
「・・・・はたしてそうだっただろうか。」
琶月
「どうしてそんな事が言えるのですか・・・・?証拠でもあるんですか?」
キュピル
「ある。」

その一言に私はドキリとした。
これから言うキュピルの言葉に耳を傾け・・・そして。

キュピル
「・・・輝月の遺体をよく調べたか?」
琶月
「・・・・いえ・・・・。」
キュピル
「そうだろうな・・・。・・・輝月の衣服の下に、1枚の写真があった。渡しておこう。」

そういうと、キュピルはもう一度振り返り私がいる方へと向き直ると血のかかった写真を1枚手渡してきた。

キュピル
「血がかかっているから本当は渡さないつもりだったが・・・やっぱり渡しておく。」

キュピルから手渡された写真を両手で受け取り、映っている物が何なのか目を落とす。
・・・・そこには、昔。私と師匠が道場の前で半ば無理やり一緒に記念写真を撮った物が写っていた。
私は横から師匠に思いっきり抱き着いて幸せそうな笑みを浮かべている横で嫌そうな顔をする師匠の姿。・・・懐かしい。
師匠と一緒に写真を撮ってもらったのは記憶ではこの1枚限りのはずだ。・・・あの後、恥ずかしいからと言って写真を師匠に没収されてしまったけど・・・・。

・・・・・・。

キュピル
「本当に嫌いなら、二人で仲良く抱き着いている写真をこっそり持ち続けているか?」

仲良く抱き着いているというか、一方的に抱き着いているというか・・・。

・・・・でも、ちょっと気持ちが楽になった気がする。


キュピル
「・・・・・・琶月。自分の部屋で輝月が死んだんだ。・・・その部屋で寝るのが辛かったらこの先は輝月の部屋で寝た方がいい。」
琶月
「・・・・いえ。・・・・。私はここで寝ます。」
キュピル
「・・・・・・・・・・。」
琶月
「・・・・そこに師匠がいた。・・・少しでも、それが感じられるこの部屋にいたいんです。」
キュピル
「・・・・・・・・・そうか。」

それだけいうと、キュピルは私の部屋を後にした。



・・・・。


その後はもう、ただただ私は泣き続けた。

そうだ。

ヴィックスへの対する怒りも大きいものだけれど・・・。


モノクマも許せない。


モノクマが私達を閉じ込めてあんな事をしなければ殺し合いなんて起きなかった。


全てはモノクマが悪いんだ!!!!


私はベッドのシーツをぎゅっと掴みただただ泣いた。泣き続けた。
そして泣きつかれたのを感じた後は、ベッドの上で横になり、そして泥のように眠った・・・・。




・・・・。


・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




『オマエラー、おはようございます。朝です、7時になりました!起床時間ですよ~!
さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』



いつものモノクマのアナウンス。
私は気怠い体を起こして大きく背伸びをした。


・・・・。いい気分がしない。


琶月
「そうだ・・・。朝の集合・・・。」

朝7時になったら食堂にあつまる約束だ。
私は衣服を整えて、寝癖も直したことを確認した後に食堂へと向かった。




・・・。

・・・・・・・・。

食堂にたどり着くと、そこにはファンとキューとルイ、そしてテルミットの姿があった。

キュー
「あ、おはよう・・・・。」
ファン
「おはようございます。」
琶月
「うん、おはよう・・・。」

皆がちょっと私に気を使っているように感じる。・・・その理由は考えなくても勿論分る。
私が食堂にたどり着いてから約5分後にヘルとディバン。そして15分後にボロとガムナ。そして30分後にジェスターとキュピルがやってきた。散々人を待たせておいて二人とも悪びれている様子はない。むしろ、何か?と文句を言ってきそうな目だ・・・・。

琶月
「お・・・遅かったですね・・・。」
キュピル
「・・・・・・・・。」

昨日はあんなにもペラペラと私にいろんなことを話してくれたのに今日はまた無口だ。
・・・何なんだろうか。あの人は。

キュー
「えーっと、キュピル・・・ルイ・・・ファン・・・ジェスター・・私と・・ヘル・・・テルミット・・・琶月・・ディバン・・・ボロ・・・ガムナ・・・。うん、あいつ以外は全員揃ってるね。」
ディバン
「全員か。今となっては、ギーンを除けばこれが全員なんだな。」

ディバンが言っている意味は人が減ってしまった事を言っているのだろう。
その意味を重く受け止めている私は顔を下に向ける。・・・それはボロとガムナもだった。

ルイ
「・・・3人共・・あまり落ち込まないでください・・。」
ボロ
「・・・・落ち込む?・・・聞いたッすか?落ち込んでいると思われているらしいっすよ。」
ガムナ
「・・・おうよ。落ち込んでいる訳ねーぜ。何故なら今日から俺が隊長だからな!!!ちょっと誰か祝辞の言葉述べてくれよ!」
ボロ
「はっ!?ぬかすなって!俺が隊長っすよ!!」
ガムナ
「わーった!わかった!!俺は隊長だが代わりにお前を副隊長にしてやろう!」
ボロ
「ば、ばか言うんじゃねーっす!!!!!」

さっそく馬鹿を始める二人。
・・・二人にとって隊長であるヴィックスの死は相当に重かったはずだ。それは処刑場での、あの金網にしがみついて叫び続けていた事が証拠だ・・・。
・・・それでも、二人はこれ以上ここの空気を悪くしないためにあえてふざけて雰囲気を明るくしようとしてくれている。

二人は私が想像していた以上に強かった。

2日前までなら、全員が二人のやり取りをめんどくさそうな目で見ていた事だろう。でも今は全員安心したような、ホッとしたかのような安堵の表情で二人のやり取りを見て笑っていた。

ファン
「では、そろそろ朝食を頂きましょうか。」
ルイ
「はいっ。ちょうどみなさんの朝ごはんを作り終えた所ですよ♪」
キュー
「うんうん。いつもありがとうね。ルイ。」
ジェスター
「ごーーはーーんーー。あーーん。」
ルイ
「はいはい、ちょっと待っててくださいね。」

ルイと他何人かが台所へ行き、朝食を受け取りに行く。流石はメイド長。この短時間で全員分の食事を作り上げただけでなく味も栄養も全てが満点だ。
・・・心なしか、キュピルのだけ更にもうワンランク上の朝食を出しているような気がする。・・・気に入っているのだろうか?


朝食をちょうど食べ終えた頃。唐突にキュピルが全員に話しかけてきた。

キュピル
「ところで、お前達全員はもう気づいたか?」
ヘル
「ん?気づいたって何だよ。」
キュピル
「これまで行けなかった部屋のいくつかが入れるようになっている。」
ディバン
「何だと?」

全員がディバンと似たような反応を返し、視線がキュピルの元に集まっていく。

ファン
「それなら僕から提案します。この朝食を終えたら全員で探索をし、出口をもう一度探しましょう。プラスして、どこに行けるようになったか知っておきたく思います。」
ルイ
「そうですね・・・。私もファンさんの意見に賛成です。みなさんで探索して入れるようになった場所を探しましょう。」
ディバン
「決まりだな。俺はもう食べ終えたから行く。」

そういうとディバンは立ち上がり、そそくさと食堂から出て行った。

ヘル
「ちっ、俺も行くぜ。」
テルミット
「ヘル、めんどくさそうだね。僕も行くよ。」

ヘルとテルミットも席から立ち上がると食堂から出て行った。
残りのみんなも次々と出て行き、最後に食堂に残ったのは私とキュピルとルイとジェスターだけになった。

ルイ
「キュピルさん。一緒に探索しませんか?」

ルイがキュピルに近寄り、手を取って誘い始めた。・・・やっぱりルイさん。キュピルさんの事を気に入っている・・・どころか惚れていたりしない?
でも、キューさんを庇ったり学級裁判でも聡明な所を見せたし高校生にしては凄い人だ。それに黙っているからかっこよくも見える。
・・・昨日私と探索すると約束はしていたけど、今日はルイさんと探索しそうな雰囲気だからそそくさに立ち去って一人で調査しよう。
私が師匠とイチャイチャするのはいいとしても、他の人がイチャイチャしている所を見ると恥ずかしくなってついつい立ち去りたくなっちゃう。
そう思って私は食堂を後にした。



・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。


キュピルが言っていた通り、これまで行けなかった部屋のいくつかに入れるようになっていた。
まず、食堂を出て真正面にある部屋。これまでKEEP OUTと書かれたテープが張られていて中に入れないようになっていたが
そのテープが消えていた。つまり入っても良い・・・って事だろうか?

私は新しく入れるようになった場所へと入った。入った部屋は、銭湯の脱衣所らしき場所だった。
木製ロッカーに壁に取り付けられた扇風機、畳の床・・・。

琶月
「(銭湯の脱衣所そのままだ・・。)」

部屋の奥にも扉がある。鉄で出来たちょっと重たい扉を引いて開けると、そこには大きな公共浴場が広がっていた。

琶月
「わぁ!」

奥行8m、横の大きさが5mぐらいの非常に大きなお風呂が一つ。そして壁に取り付けられたいくつかのシャワー。
浴場の奥にはサウナもあるようだ。
良く見ると、サウナの入り口にヘルとキューが立っていた。

ヘル
「おう、琶月もここに来たのか。」
琶月
「はい。食堂出て最初に目についたのがここだったので。」
キュー
「おっきいお風呂があってよかった~!アタシはシャワーよりお風呂派だったからね。」
ヘル
「俺も公共浴場があってよかったと思っている。」
キュー
「ヘルもシャワーよりお風呂派?」
ヘル
「いや、俺はシャワーでもお風呂でもなくサウナ派だ。」
キュー
「言っている意味が良く分らないんだけど・・・。」
ヘル
「汚れや汗はサウナに入って汗で流す。そしてそのまま出るのが俺流だ。」
キュー
「うわ、臭そう!!金輪際近づかないでよ!!」

・・・酷い言われようだ。
その時、私はある事に気が付いた。

琶月
「ん?・・・そういえば、お風呂は男女に分かれていませんね。」
キュー
「あ、そういえば・・・。」
ボロ
「混浴だーーーーーーーーーー!!!」
ガムナ
「超高校級の貧乳!!一緒にお風呂はいろーーぜ!!!」

何処からともなく2馬鹿が飛んで現れ、ボロはキューに、ガムナが私に抱き着いてこようとしたがその前キューが両手で弾いて二人とも床に叩きつけた。

キュー
「油断も隙もないね。」

突如飛んできた二人を叩き落とせるキューの反射神経も凄いけど・・・。

キュー
「お風呂入る時はルール決めておかないと大変な事になりそうだね。」
ボロ
「無条件混浴を所望する!!」

一秒後、風呂桶で頭をパコーンと叩かれる音が浴場に響いた。


公共浴場を後にした私は、寄宿舎エリアから校舎エリアへと向かって歩いて行った。
廊下は何一つ変わっておらず、裁判場へと続く赤い扉は鍵がかかっている。・・・もう二度と、あんな場所には行きたくない・・・。
視聴覚室の前を通り、購買場の前を通る。ここまで何一つ変化はない。
そして鍵のかかっている保健室の前を通った時に変化に気が付いた。

琶月
「あれ・・・。シャッターが空いている・・・。」

昨日まで二階へ続く階段は鉄格子が下りていて階段を上がる事は出来なかったが今はそのシャッターが開いている。
私は階段を登って二階へと進む。

二階にたどり着いた瞬間、誰かが走って階段を上ってきているのに気が付いた。
振り返ると、そこにはキュピルの姿があった。

琶月
「あれ、キュピルさん。ルイさんと探索するんじゃなかったんですか?」
キュピル
「俺はそんな事一言も言っていないぞ。ちょっとは待っててくれてもよかったのに。」
琶月
「む、むむむむ・・・。それにしても、走って追いかけてまで私と一緒に探索したかったなんて。もしや、私の魅力に気づいちゃったんですね?」

ドヤ顔を決めながらキュピルにアピールする私。ふふふふ。

キュピル
「・・・・イライラを通り過ぎて何も感じないな。やっぱり一緒に探索するのやめる。」
琶月
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
キュピル
「・・・・冗談だ。行こう。それと地図を置いておくぞ。」

キュピルが地図を投げ捨てると私を置いて何処かに歩き始めた。

琶月
「あああああああああ・・・・・ん?あ、ちょ、ちょっと待ってくださーい!!」

私は地面に落ちている地図を急いで拾い、早歩きで進むキュピルを私は追いかけていく。




(琶月が拾った地図)




キュピルは地図で言う所の14番に向かって歩いていた。
船の碇のマークが刻まれている扉を開け私を待たずに中に入っていく。
慌ててキュピルの跡を追って14番の部屋へ入ると、そこはビート版や浮き輪、水に浮かぶポールなど水泳やプールに使われる道具が置かれていた。

キュピル
「ここは更衣室入口だな。」
琶月
「みたいですね。」

12番の部屋は女子更衣室、13番の部屋は男子更衣室のようだ。
入口にはカードリーダーのような物が設置されている。
試しに女子更衣室を開けようとすると鍵がかかっていて中に入ることが出来なかった。

琶月
「あれ、おかしいですね。空いていないみたいですよ?」

私が必死になって開けようとしていると突如どこからともなく。

モノクマ
「当たり前だよ!だって琶月は、男の子だったんだから!!」
琶月
「うぇっ!!?モノクマ!!?」

後ろから突然モノクマに叫ばれ私は腰を抜かして尻もちをついてしまった。

キュピル
「そうか。それなら貧乳なのも納得だな。」
琶月
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
って!!!私は男じゃありませんから!!!ちゃんと女の子です!!!!」
モノクマ
「本当かなぁ?だったら脱いでみてよ~~~。・・・むぎゅっ!」

キュピルがモノクマを掴んで首元を強く締め付けている。

モノクマ
「こ、こらぁっー!校長への暴力は校則違・・・。」
キュピル
「スキンシップの間違いだろ?それとも校長先生は生徒とのスキンシップも取れないコミョ障なのか?」
モノクマ
「・・・・・・・・・命拾いしたなぁっ!おい!」

どう聞いても捨て台詞にしか聞こえないセリフを吐き捨ててモノクマはキュピルのそばから離れた。

琶月
「・・・あのぉ・・。そんな事よりどうすればこの先に入れるのですか?」
モノクマ
「んん?自分の持っている電子生徒手帳をそこのカードリーダーに読み込ませれば中に入ることが出来るよ。
当たり前だけど女子は女子更衣室だけ。男子は男子更衣室にしか入れないからね。」
琶月
「それなら安心ですね。・・・んん?でも扉が空いている隙に入られる可能性ってのはないんですか?」
モノクマ
「そんな不埒な事をする奴はコイツで蜂の巣にしてやるから安心していいよ~。」

そういうと突如天井から巨大なガトリングガンが出現し銃口を琶月に合わせた。

琶月
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!こ、こっちに向けないでください!!!!!!怖い怖い怖い!!!!」

私は電子生徒手帳をカードリーダーに読み込ませすぐに女子更衣室に避難した。



・・・・。

・・・・・・・・・・。

琶月
「はぁ・・・怖かった。」

女子更衣室で溜息をつく。
この部屋にはコインロッカーとトレーニング用具、それと観葉植物とモニターと監視カメラ。
・・・更衣室だけど、ここではなるべく着替えたくない。
コインロッカーに近づき鍵をかける事が出来るか確かめてみた。しかし鍵をかけるためには硬貨が必要なようだ。

琶月
「誰もお金なんか持っていないしこんなの鍵かからないじゃん・・・・。」

私は悪態を付きながら更衣室を通り抜け、奥の扉を潜った。
地図で言うと11番だ。

扉の先には奥行50m程、横幅15m程の大きなプールがあった。

琶月
「わぁ、プールだ!」
キュピル
「気をつけろ、深さ10mだ。」
琶月
「深っ!!?」


キュピルがプールの案内板を指さしていた。右下にはモノクマのマークがあった。
・・・多分モノクマが勝手に改造したのかな。何のためにか分らないけど。

琶月
「そんな事より、キュピルさんもうこっちに来てたんですね。」
キュピル
「通り抜けるだろうと思ってな。琶月は泳ぐの好きか?」
琶月
「はい、大好きですよ~♪よく師匠と一緒に海に行こうとせがみました。」
キュピル
「結果は?」
琶月
「師匠、あんまり泳ぐの好きじゃなくて結局一回も連れてってくれませんでした。」
キュピル
「もしかしたら泳げないのかもな。」
琶月
「そんなまさか~。・・・・。・・・・まさかですよね?」

勿論今となっては答えはもうわからない。
私とキュピルさんはプールの外周を適当にグルグル回った後、再び校舎エリアの廊下へと戻って行った。
・・・途中通った更衣室入口から飛び出てきたガトリングガンは何故かずっと銃口を私に向けていた・・・。


地図に書いてある15番は女子トイレ、16番は男子トイレだ。特に気になる所はない。
17番には極々普通の教室が存在していた。(窓に鉄板が張りつけられている事を除けば
ジェスターがファンの背中に乗って落書きを続けていた。無駄に集中していたので私とキュピルさんは話しかけずにそのまま出て行った。

部屋19番へ入るために広い廊下を歩く。
18番の部屋はどうやら廊下からではなく19番の部屋から続いてはいるようだ。
大きな木製の扉を開けて部屋19番の部屋へ入った。部屋は分厚い本が何冊も並ぶ図書室だった。
・・・図書室といえど、ここに置いてあるのは一体誰が読むのであろうか分らないとても難しく茶色の渋い見た目をしている本しかない。
試しに一冊手に取ってページを開いてみたが母国語が書いてあるはずなのに何が書かれているのか一切分らなかった。

琶月
「難しい事本しか置いてありませんね。漫画でもあればよかったんですけど・・・。・・・ん?」

たまたま開いたページに何か紙が挟まっていた。

琶月
「・・・・?」

挟まっていた紙を手に取る。・・・殴り書きで何かが書かれている。


『う 3』

琶月
「・・・なんですか?これ?」
キュピル
「ん?・・・・お、そんな所にあったのか。」

キュピルが私に近づくとその紙を手に取り、そしてそのままポケットの中へ入れた。

琶月
「あーあーあー!持ち逃げしようとしてるー!まさかお宝の在り処を示す暗号だったりしませんよね?」
キュピル
「琶月にしては冴えてるな。その通りだ。」
琶月
「・・・・え?冗談ですよね?」
キュピル
「冗談なものか。」
琶月
「・・・・だ、だ、だったら!!な、猶更返してくださいーー!!わ、私が最初に見つけたのですから!!」

キュピルが意味深な笑顔を見せた後、私の耳元でささやいた。

キュピル
「それなら今日の夜12時に俺の部屋に来てくれ。」
琶月
「・・・・・・ああああああああああああああああああああ!!!!し、真の狙いは私だったんですね!!!!????」
キュピル
「・・・輝月はよくストレス死にしなかったな。」
琶月
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
キュピル
「夜12時に俺の部屋に来てくれたらこいつが示している宝を見せてやる。」

キュピルはそれだけ言うと図書室の奥にある部屋には行かずに廊下へと出て行ってしまった。

琶月
「あ・・・。」

・・・別に怒らせたわけじゃないよね?
キュピルが出ていった扉を見つめていると、後ろから音が聞こえた。

琶月
「ん?」
ギーン
「おい、うるさいぞ。書庫では静かにしろと幼稚園で学ばなかったか?」
琶月
「ふっふっふ。私は幼稚園には行っていないのでしりませーん!」
ギーン
「幼稚園児以下って事か。だから胸も幼稚園児レベルで止まってるのか。」
琶月
「あああああああああああああああああ!!!!!!!胸の大きさは関係ないはずです!!!!」

両拳を握りしめてギーンに猛烈アピールする私。が、鼻で笑われて私のアピールは一瞬で崩れた。

琶月
「そ、そんなことより・・・・。今ギーンさんが出てきた部屋って何の部屋ですか?」
ギーン
「知りたいか?」
琶月
「知りたいです。」
ギーン
「そうか。」
琶月
「・・・・・・そ、そこで話を終わらせないでください!!!!」
ギーン
「ふん、お前みたいな凡人には一生縁のない本がこの部屋の奥にある。入るなら俺に一言断ってから入れ。」
琶月
「(め、めちゃくちゃ偉そう・・・!!)」
ギーン
「当たり前だ。俺はお前ら愚民と違って一国を治める偉い奴だからな。」
琶月
「読まれた!!?」


このまま黙って帰るのも癪だ。私は図書室の奥へと足を踏み入れた。


・・・・。

・・・・・・・・・・。

図書室の奥にある部屋は非常に薄暗く、埃も積もっていて汚い場所だった。
壁一面に天井まで伸びた本棚が置かれており、それぞれの本棚には分厚い本がギッシリ詰まっていた。
床の上にも何冊かの本が無造作に積まれている。

琶月
「げほっ・・・何ですか、ここ?」
ギーン
「この部屋にある本の殆どは通常の手段では入手できない貴重な物ばかりだ。」
琶月
「通販でも買えないような本何ですね。」
ギーン
「・・・発想がいかにも庶民だな。」
琶月
「別に庶民なんですからいいじゃないですか。」

私は口を尖らせながらギーンに文句を言った。
薄暗く足元も悪い部屋の中歩き、本棚に置かれてあった適当な一冊を手に取った。

ギーン
「ほぉ、最初にその本を取るとはお目が高いな。その本にはある国に存在する巨大組織の秘密について書かれている。
そいつを読めばその巨大組織に狙われ、拉致されて拷問を受けても文句は言えないから気をつけろ。」
琶月
「・・・・・・・・。」

私はそっと本を元の位置に戻し、隣の本棚に置いてあった本を手に取った。

ギーン
「数ある本の中でもその本を選ぶとは素質があるな。だがその本を読むなら今後の生活は常に暗殺者に追われる生活になるという事を意識しておけ。
その本には世界を牛耳る人物について書かれている。大統領や首相すら言い成りになってしまうような人物だ。それでも読むなら俺が翻訳してやろう。」
琶月
「・・・・・・・・。」

私は黙って本を元の位置に戻した。
ちょっときょろきょろした後、別の本棚にある本を一冊手に取った。

ギーン
「お前はとうとう手にしてしまったな、その本を。そいつは中身を見ていなくても手に取った時点から命を狙われる羽目になる危険な事件証拠ファイルだ。次の被害者は琶月で決まりだな。」
琶月
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
って!!!さっきから何でこんな危険な本ばっかり置いてあるんですか!!!!」

私は目を瞑りながらギーンに猛烈に抗議した。

ギーン
「言っただろ。ここには通常の手段では手に入らない貴重な本ばかりがあると。」
琶月
「私はてっきり絶版になってしまった小説や漫画が置いてあると思ってたんです!
第一、さっきの裏の組織だとか世界を牛耳るだとかそんなリアリティーのない話を私は信じませんよ!!」
ギーン
「愚民お得意のリアリティーのない話か。そうやってお前等はスケールの大きい話を現実味のない話と断定して世界から目を背け続けていたんだな。
この部屋にある本の内容全てはおとぎ話何かではない。俺から言わせてもらえば貴様の胸のサイズの方がおとぎ話にしか聞こえん。」
琶月
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

私は頭を抱えながらギャーギャー叫び、そしてそのまま勢いに任せて部屋から出て行った。このままギーンと話していると自尊心全てが削られてしまいそう!!

ギーン
「元から自尊心なんかなさそうだけどな。」

心読まれている上に追い打ちまでかけられてる!
そのまま図書室を抜けて廊下を走り抜けた。

琶月
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ファン
「廊下では走らず静かに。」
琶月
「はい・・・。」


最後に残った部屋は廊下を突き辺りまで言った所だ。(地図でいうと20番
恐る恐る扉を開けて部屋の中を確認すると、17の部屋と同じくごく普通の教室がそこには存在していた。
そして教室にはルイに抱きかかえられながらチョークを使って落書きするジェスターの姿があった。・・・一階の教室にも落書きがあったけど書いた犯人はジェスター?

ジェスター
「あ、琶月だ。琶月も落書きする~?」
琶月
「せっかくなので。」

そういうと私はチョークを持って黒板に落書きし始めた。
しかめっ面をし角の生えた顔を書いていく。

ルイ
「何ですか?それ?」
琶月
「鬼です。」

鬼の絵を書いた後、最後に右下に矢印を書き「ギーン」とだけ書いて私はそそくさに部屋から出て行った。


・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。



お昼頃。
新しく解放されたエリアの探索も終了し、同時にお昼も迎えて報告も兼ねた昼食会を開くことになった。
全員が席に着いた事を確認するとファンが話し始めた。

ファン
「相変わらずギーンさんはいませんが報告を始めましょう。」
ヘル
「んじゃ俺から報告するぞ。」

ヘルが両足を机の上に乗せ、両手を頭の後ろに持って行って首を支える。

ヘル
「俺とキューで一階を隈なく探索した。やはりというか一階もいくつか新しい場所に行けるようになっていたぞ。」
キュー
「もう殆どのみんなが気づいていると思うけど、食堂出て目の前にあるKEEP OUTってテープが張られていた場所。あのテープが無くなってて入れるようになってたんだ。そしてその先の部屋には更衣室と大きいお風呂もあったよ!
ただ、男女に分かれていないから入る時ルール決めていないと大変なことになるかも・・・。」
ガムナ
「混浴でいいぜ!!」

誰かがスリッパを投げてガムナの顔面に直撃する。

ヘル
「余談だがサウナもあった。俺はこれから毎日サウナに入る。」
テルミット
「サウナ良いですね。」
ファン
「他に新しい発見はありましたか?」
ヘル
「ん、そういえば更衣室と公共浴場には監視カメラがなかったな。」
ルイ
「本当ですか?それなら安心して湯に浸かる事が出来ますね。」

ルイがニコッと満面の笑みを見せる。

ジェスター
「ね~。ロリコンのモノクマに見られなくて済むのがいいね~。」

相変わらずジェスターの中では既にモノクマはロリコンという印象が定着してしまっているようだ。

ヘル
「俺とキューはそんな所だな。」
キュー
「うん。あ・・・言い忘れてたけど、窓とかそういうのはなかったよ。ついでに・・・外に出れそうな所もなかったね・・・。当たり前かもしれないけど・・・。」
ファン
「わかりました。・・・他に報告ある方?」
ボロ
「俺から報告するっす。俺とガムナで一階を隈なく探索してきたっすよ。」
ガムナ
「でっかい風呂に行けるようになった他に寄宿舎エリアに鍵のかかっていたある部屋に入れるようになっていたぞ。」
ディバン
「そいつはどこの部屋だ?」

ディバンが地図を持って二人の前で広げた。

ボロ
「ここっすよ。」

ボロがサインペンを持って地図の上に部屋の名前を書き始めた。






ボロ
「ここの『倉庫』って書いた場所っすよ。」
ディバン
「っという事は寄宿舎エリアは全ての部屋に入れるようになったって事か。」
ガムナ
「倉庫にはいろんな備品があったぜ。ジャージやお菓子、後色んな備品も置いてあった。口じゃ説明しきれないから一回言ってみてくれ。」

時間があったら言ってみる事にしよう・・・。

ボロ
「それ以外に一階で行けるようになった部屋はなかったっすね。」
ファン
「わかりました。他に報告のある方。」
キュピル
「んじゃ俺が報告する。俺と琶月で新しくいけるようになった二階を探索してきた。」

一瞬ルイのいる方角から鋭い視線を感じ顔を向けたが普通に笑顔を向けているルイの姿があった。・・・気のせいだったのだろうか?

キュピル
「地図を広げて番号順に何の部屋があったか簡単に説明するぞ。」

そういうとキュピルは机の上で地図を広げ皆が見えるように真ん中の位置に置いた。






キュピル
「11には大きなプールがあった。」
琶月
「深さ10mの。」
キュー
「深!!?」


キューが私と全く同じリアクションを取る。

キュー
「何それ、もともとそういうプールなの?」
琶月
「うーん・・・多分モノクマが改造したんだと思いますけれど・・・。」
テルミット
「無駄な所で力を入れますね・・・。」
キュピル
「プールがある他に特に気になる事はなかったな。12は女子更衣室、13は男子更衣室だ。着替えるためのコインロッカーとトレーニング用具が置かれていた。」
琶月
「あ、ちなみにコインとついている通りちゃんとお金がないと鍵がかからないみたいです。」
キュー
「意味ないじゃん!」
キュピル
「説明を続けるぞ。14は更衣室入口だ。ちなみに更衣室に入るためには各更衣室の入り口にあるカードリーダーに電子生徒手帳を読み込ませる必要がある。当たり前だが男なら男子更衣室、女なら女子更衣室だ。」
琶月
「モノクマ曰く、女子更衣室の扉が空いている隙に男子が女子更衣室に入ろうとしたら天井にぶら下がっているガドリングガンで蜂の巣にするそうです。」
テルミット
「こ、こわ・・・。」
ボロ
「さ、流石にそりゃ入る気しないっす・・。」
ガムナ
「みーとぅ・・」
琶月
「ふっふっふ。」
キュー
「何で琶月がドヤ顔決めてるの・・・。」
キュピル
「説明続けるぞ。15は女子トイレ、16は男子トイレだ。特になし。17は教室。ジェスターが落書きしていた以外に特になし。」
ジェスター
「芸術作品だから皆見てよ~?」

ジェスターが人差し指を出して皆を指さすが殆どの人は苦笑いするだけだった。

琶月
「ここから先は私が説明します。19は図書室で色んな本が置いてありました。
・・・ただ、どれも小難しい本が並んでいて興味のある本は殆どありませんでしたね・・・。」
キュピル
「まぁ、興味がある人が居たら読んでみたらどうだろうか。」
ヘル
「俺は遠慮するぞ。」
ジェスター
「絵本はないの?」
ファン
「科学に関する本があれば読んでみたいですね。」

それぞれが思い思いの言葉を発する。

琶月
「で、18の部屋ですが・・・。ここには重大な機密事項に関する本が置いてあるらしく・・・。
ギーン曰く、読むと命を狙われる恐ろしい秘密が書かれた本ばかりがここに置いてあるので・・・。あまり入らない方が良いと思います。」
キュー
「きっと嘘に決まってるよ!」
ディバン
「なら読んでみたらどうだ?」
キュー
「遠慮しておく・・・。」

一瞬で引き下がったキューを置いて私は説明を続けた。

琶月
「20は普通の教室でジェスターが落書きしていたことを除けば気になる事はありませんでしたね。」
ジェスター
「私の落書きは宗教画家にも負けない絵だから皆見てよ~?」

ジェスターが人差し指を出してもう一度皆を指さすが、今度は誰も反応しなかった。

キュピル
「ちなみにだが二階にも外に出れそうな部屋はなかった。・・・当たり前だったかもしれないが。」
キュー
「そんな・・・・。・・・二階にこそ出口があると思ったのに・・・・。」
ディバン
「浅はかな考えだったって事か。」

殆どの人が顔を下に向けて憂鬱な表情を見せる。

ルイ
「・・・えーっと・・はい!よろしいですか?」

ルイが席から立ち上がり手を挙げた。

ファン
「どうぞ。」
ルイ
「落ち込んでても仕方がありませんから、みなさんお昼ご飯にしません?実は探索せずに作っていたので殆ど用意出来ているんですよ。」
ボロ
「飯!!」
ガムナ
「飯だ!!!」
ジェスター
「ご~は~ん~。」

何人かが猛烈に反応して早く食べたいとアピールする。

ファン
「・・・そうですね、報告会はここまでにして昼食をとりましょう。」
ルイ
「はい。」

そういうと全員が席を立ちキッチンへと移動し始めた。

・・・キュピルが私の方を見ている。
その目は恐らく図書室の本に挟まれていたあのメモについて何か言いたいのだろう・・・。

琶月
「(・・・夜12時・・・でしたよね・・・。)」


・・・あれは一体何を示しているのか。


それが出口に繋がる答えなのか?


それとも本当にただのお宝?


その答えを早く知りたく、この日の昼食はあまり味を感じることが出来なかった。



続く


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